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■取引先が倒産
午前8時半。孔明の携帯電話が突然鳴りました。
「孔明。うちの会社つぶれちゃったよ。あちゃー。」
気の抜けた声で話すのは、孔明が営業担当をしていた会社K社の商品仕入担当課長さん。
孔明の頭の中が真っ白になりました。その仕入れ担当者とは一週間前に商談をして、大口の商談を決めてきたばかりです。
頭の中が真っ白になったのは、何も大口の商談を決めた会社が倒産してしまったからではありません。実際に自分が関わっている企業が倒産してしまう。社会人になって数年しか経ってない孔明には、この事実を受け止めることが出来なかったのです。
孔明が勤務している会社にとっては上位ベスト3に入る大口の客先です。これまで何十年も取引があった老舗の客先です。
社用車に乗込み、急いでK社の倉庫に向かいました。会社の規定により、取引先企業が倒産した場合は、急いでその企業の倉庫に行く様になっています。商品の回収漏れが無いよう納品した商品を押さえなければならないのです。
倉庫に着くと、孔明がこれまでお世話になったK社の仕入担当課長さん始め、K社の営業マン達も既に来ていました。孔明と同じく知らせを聞いて駆けつけた取引先の担当者達の対応するためです。
「本当に申し訳御座いません。」孔明は深々とK社の担当者達に頭を下げて謝りました。誰にそうしろと言われたわけでもありませんが、謝らなければと心の奥底から思ってしまったのです。
孔明がK社に販売して大量に残ってしまった在庫。市場の需要よりも多い量を相手に買わせて「売上達成!」と得意げになっていた自分。それらが走馬灯の様に孔明の頭の中を駆け巡ったのです。
「別に孔明のせいじゃないよ。うちの会社は経営がおかしくなってたんだから。遅かれ早かれこうなるのは実は分かってたんだよ。君は本当によくやってくれたよ。」
もっと、滅茶苦茶に怒鳴られるたり、文句を言われたりされるものだと思っていました。不思議なもので、仕入担当課長さんも、営業マン達も妙に落ち着いています。自分が勤務している会社が倒産したのにこんなに落ち着いていていいの?と思ってしまったくらいでした。
会社倒産は他人ごとだと思っていました。本当に駄目な会社だけが倒産するのだと。
営業たるもの自分の会社の売上計画を達成させる為には、手段を選ばずどんなことでもやって物やサービスを売りつければいい。そう思っていました。
けれど全て間違っていたのです。目の前には売れずに残っている在庫の山がそびえ立っています。全て孔明が売りつけた物。
孔明が得意としている「交渉術」を駆使して、相手に買わした結果残ってしまった在庫です。
作業は淡々とスムーズに終わりました。孔明の会社のトラックが到達し、商品を積み終わるのが確認できたら、そこでの孔明の役目は終了です。
K社の倉庫にいたこれまでお世話になった人達全員に挨拶をして、倉庫を後にしました。
■2度と倒産させるものか
帰りの社用車の中で、涙が止まりません。高速道路のパーキングに車を止め、ただただひたすら一人で泣きじゃくりました。
孔明が今までやっていたことは一体何だったのか。
K社に必要以上の商品を購入させたのは、ただ単に自分の売上計画を達成させたかっただけじゃないか。そんなに沢山の量は売れないことは、ちょっと考えれば分かっていたことじゃないか。
孔明が残させた在庫が、キャッシュフローを圧迫し倒産が早まってしまったんじゃないのか。
俺はなんて自分勝手で駄目な営業なんだ。
自分自身をただひたすら責めました。自分自身の全てが嫌になりました。
会社で上司や先輩達に「よくやった。凄いじゃないか。この調子で・・・。」なんておだてられて有頂天になっていた自分自身が嫌になりました。
今までやっていたことは、単なる商品の売りつけ。全ては自分の売上計画を達成させる為。相手のことを何一つとして考えていない営業だったのです。
更に数日後、K社の仕入担当課長さんと飲みに行きました。
課長さんは孔明を責めるどころか、孔明をフォローして慰めてくれます。明日からの働き口さえ見つかっていない状態にも関わらず。
こんなにいい人を騙していたのか。とことん孔明は自分自身が嫌になりました。
暫く落ち込んで色々考えていた後、孔明はある決意をしたのです。
孔明は心の奥底から決意しました。
「もう2度と取引先企業を倒産させるものか!」と。
■最悪の営業
孔明がそれまでやっていた営業は、単に取引先企業に商品を販売するまで、その先に関しては、相手に任せっきりだったのです。
一度孔明から商品買うと決意したからには、商品在庫は相手のもの。後はどう販売していくかは、商品を買った人達がもっと考えるべきことだ。一度仕入れた在庫は彼らに責任がある。こうも考えていたのです。
営業マンの役目は自分たちの商品を相手が買ってくれるまで。その先は相手に責任がある。こう考えていたのです。
入社してたった数年にも関わらず、相手に商品を買ってもらうまでのテクニックはベテラン社員にも勝るとも劣らないものを既に身につけていました。自分の与えられた売上計画を達成させる為には手段を選ばないというスタンスを取ってもいました。
孔明がバブルの頃の営業マンだったら、そのスタンスが最高の営業マンだったと言えたかもしれません。
商品やサービスが自信のあるものだったら、客先に売れさえすれば、市場でもある程度の結果は出せたからです。
それで損をしても、他の商品やサービスで利益を確保でき、キャッシュフローが回っていたからです。
所が、今や物やサービスが中々売れない時代。そのスタンスを貫き通すだけでは、直ぐに糞詰まりを起こしてしまう時代だったのです。それに気がついていながらも、見てみぬふり。他人ごとの様に感じてしまっていたのです。
自分の商品はどんな手段を使ってでも売る。売ったら終わり。
孔明が売上計画を達成させればさせるほど、相手が苦しむ。
孔明が商品を売れば売るほど、他人が不幸になっていく。
まさしく孔明は「最悪の営業マン」だったのです。
「最悪の営業マン」から脱するためにはどうしたら良いのかをひたすら考えました。
散々考えた挙句行き着いたのは、マーケットを創造できる営業マン。「新時代営業マン」です。
つづく
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